鹿児島湾は巨大なカルデラ(サイエンスZEROより)
2011年 12月 04日
噴火の規模は凄まじく、鹿児島市や近郊の街が次々と火砕流に飲み込まれていく。しっかりと調べ上げられた資料を元に書かれもので、読んでいてもその惨状が眼に浮ぶようだった。小説では高層ビルも火砕流に飲み込まれ、最上階に避難した人々も犠牲になった。
さて、現実にはどうかと言えば、実際に姶良火山の巨大噴火は発生していた。それは約3万年前の出来事であり、近くの場所で火山灰は40メートル以上も体積している。その噴火の巨大さは日本のほぼ全土に影響を及ぼしたとみえ、関東で10センチ、東北でも5センチの降灰の痕跡が認められている。
流出したマグマの量は、記憶に新しい雲仙普賢岳の750倍、富士山の過去最大急の噴火の100倍もの噴出量であったと推定されているのだ。
そしてその噴火で出来た窪地にやがて海水が流入し、鹿児島湾になったと考えられている。
そして現在の姶良火山の火口は鹿児島湾の水深200メートルの底にあり、そこで現在も活動を続けている。鹿児島湾で見られる現象のひとつに『たぎり』と呼ばれる独特の現象がある。それは海底から噴出すガスが、気泡となって海上に湧き出している現象のこと。
ガスの正体は言うまでもなく、火山性ガスである。
火山性ガスと共に海底では『チムニー』と呼ばれる熱水の噴出口が幾つも存在し、200℃にもなる熱水が湧き出ている。大昔の姶良火山は、現在でも活動を続けているのだ。
火山性ガスは周囲の海水を酸性に変え、周囲には一般的な魚類は存在しない。僅かに過酷な環境に適応したエビやゴカイの仲間が存在するのみである。
しかし、悪いことばかりではない。火山の周辺には希少鉱物の宝庫である。この姶良カルデラと呼ばれる鹿児島湾の一画の海底には、貴重なレアメタルであるアンチモンや金が豊富に含まれていることが判明した。アンチモンは家電製品に使われるもので、少し前に中国が輸出を制限して話題となった鉱物の一種である。
このアンチモンの埋蔵量は、現在の日本で使用する量の180年分程度と算定されている。
それは火山の恵みの一つであり、現実には硫黄と結合した硫化アンチモンとして存在しているという。それが生成される条件は、酸性の海水が必要だという。
おまけに海底の泥には金も含まれており、まさに地元の方々が『錦江湾』と呼ぶ鹿児島湾は、美しい景色だけでなく文字どおり日本にとって大切で貴重な場所となる。