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身の回りの出来事から、精神世界まで、何でもありのブログです。


by levin-ae-111
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金の鷲の惑星(きんのわしのほし)6-1

時系列はそれより数カ月前に遡る。
サタンは命からがら脱出に成功し、連れている僅かな部下と共に小型の宇宙船でニビルの軌道上から離脱したところだ。
「どうして、こんな事態になった・・・」
サタンは苦々しく自問自答していた。
惑星ニビルはエアゾール化した金で覆われ、その大気の変容をどうにか防げたが、政治的な野心を持った人々の争いにより滅んでしまった。今や苦心の末に大気中に放出した金も、多くが失われ太陽からの有害な光線が燦々と地上に降り注いでいた。

争いの原因の一端は他ならぬサタンとその親派の人々にもあった。
事の発端はサタンがニビルに帰還した頃、プロジェクトの概ねの成功を確信した政府が民衆に真実を発表したことにあった。
この時代のニビルでは既にセシャトやトトの時代の精神は失われ、人々の精神は退廃していた。長い間安住の地で暮らす内に文明は著しく進歩したが、それに人々の精神的な変化が追いつかなかったのである。
次第に肥大する人々のエゴが、対立を生み最初は一つだった国家は幾つかの地区に分裂した。人々が物質的な欲望に走るように成り、セシャトの残した聖典もトトの伝説的な
慈愛溢れる治世も今は完全に忘れ去られていた。
退廃的で享楽的な文明の命は長くはない。ニビル人の社会はいつしか争いの絶えない社会へと変貌していた。
お互いの主義主張がぶつかり合い、政治的な対立も発生する。イデオロギーが似た者同士が集まり、幾つもの半国家的な集団が形成されて行ったのだった。

 元々の政府は依然として存在していたが、次第に力を失いつつあった。そんな時に大気の異常が観測された。原因は恒星の異常燃焼による有害な放射線の急激な増加に因るものが主だったが、ニビル星自体にも原因があった。
大量の資源採掘や化学的な排出物の増加が、ニビル星を疲弊させた。その結果として初めての地震や火山噴火をニビル人は経験することになった。
金を大気中にばら撒き有害な放射線を阻止し、大気の変質を食い止めるという方法は偶然に発見されたものだった。だが、必要な金の量は膨大なものだった。
金鉱脈を見つけて採掘しそれらをニビルに持ち帰る必要から、一見して無関係な宇宙探索のプロジェクトが幾つも立ち上げられたのである。
無論、惑星全体の危機を発表する訳には行かず、政府はこれを極秘にして宇宙探査プロジェクトとして発表していた。
サタンがほぼ目的を達成して帰還すると、政府は事実を大々的に発表した。失いつつあった中央政府の威信を取り戻す目的があったのだが、逆に秘密にしていた事が災いし人々の批判を買うことになった。

ニビルの民衆は一瞬の間驚いたものの、惑星の危機が去ったと分かると、何事も無かった様に人々の関心は再び自らの野心に向けられる。この時ニビル人の多くは『大気の異変を政府が防いだ』事実など、単なるゴシップ程度にしか受け取らない者が多かった。
それは政府の隠ぺい工作は成功した証ではあったが、民衆は何の危機意識を持つことが無かったからである。
それでもサタンの功労者としての名声は轟いたので、政治的野心に燃える者達は自分たちの陣営へサタンを引き込もうと躍起になった。
元々から高名な学者だったサタンは一つの陣営に加わらず、中央政府で働こうとしたが中央政府はそれを許さず翻ってサタンを追放しようとした。政府の権力者たちはサタンの名声を恐れたからだが、彼らの精神構造もまた民衆と大差が無かったのである。
止む無くサタンは誘いの手を伸ばした一つの陣営へ加わったが、これに対して未だ最果ての惑星に在って任務を続けているヤハウェを慕う者たちが動き始めた。
「サタンはヤハウェを差し置いて、全てが自分の手柄だと思っているようだ」とか
「司令官を残して自分が先に帰還し、賞賛を独占しようとは許されるものではない」などと、批判の矛先をサタンに向ける者が続出した。

サタンやヤハウェを支持する勢力は各々に画策し、やがて人々の間で二大勢力として大きく台頭して行く。中央政府の威光は完全に失墜しており、軍隊もまた政府から離れてサタンかヤハウェのどちらかの陣営に加わった。
双方の勢力の拠点は軍隊が加わることで実質的な国家となり、情勢はその勢力図の境界付近に展開した軍人たちが睨み合う事態へと悪化していた。
だがヤハウェ本人は未だ最果ての惑星に在り、サタンを担ぐ勢力の勢いに押され始める。
緊張が続く最中、一発の銃声により事態は急展開することになる。
一人の兵士が暴発させた銃弾が、不運にも相手方の歩哨の一人を殺したのだ。目前で同僚を殺された兵士たちは、反射的に反撃に出た。
反撃された方も撃ち返し、事態はなし崩し的に戦闘状態へ突入した。元々が好戦的な性質を持つニビル人だけに、戦闘がエスカレートするのに時間は不要だった。

 それでも初めは銃撃戦のみだったが、どちらからかロケット弾や砲撃が開始される。
こうなると中央政府のコントロールを離れて私兵と化した軍隊は、各々の部隊で勝手に戦闘を始める。
ニビル軌道上では破壊衛星が互いを撃ち合い、地上に向けて破壊光線を打ち込んだ。
空では互いの戦闘機がドッグファイトを行い、海でも両陣営の戦闘が行われた。
宇宙空間でも武装した宇宙船が、互いを破壊しようと力の限りを尽くし戦っている。
こうした無秩序な戦闘が陸上、海上、空、宇宙で行われた結果、サタンたち科学者やエンジニアが苦心して張り巡らせた金の有害光線に対する防御壁は完全に崩壊してしまいその機能を失った。
結果として急激な大気組成の変化とコントロールを失った兵器の使用、その両方により誘発された自然災害がニビル人を一掃してしまう程の規模で発生した。
地震でよろめく兵士たちや人々を巨大な津波が、大きな地割れが、突然の噴火が建物や乗り物ごと容赦なく飲み込んでいく。

「サタン様、脱出してください!!」
部下の必死の叫びも聞こえぬ様子で、サタンは茫然と佇んでいた。部屋のスクリーンには衛星からの攻撃で消滅する街の様子が映っている。
「何という事だ・・・何という・・・」
言葉を失い見入っていたモニターも、カメラが破壊されたのか映らなくなった。
「サタン様、早く」
部下の一人が警備兵を連れて駆けつけて来て、二人の兵士がサタンを強引に引き摺る様にして脱出艇のある場所まで連れて行く。
サタンの居る地下基地は比較的に揺れが少なく、多くの兵士や職員が脱出用の宇宙船に乗ることが出来たが、それ以上の人々が脱出艇へと殺到していた。
「サタン様を確保した、早く出せ!」
脱出艇の付近にはまだ多くの人々がいたが、その人々を押しのけて兵士がドアを閉める。
「助けてくれー」「乗せてくれー、頼む」
人々の助けを求める声を無視して、サタンを乗せた最後の脱出艇は無情にも緊急発進でエンジンを全開で吹かす。
脱出艇の船体には自動的にシールドが張られ、その瞬間に船体に取りすがっていた人々の手足が消滅した。
 人々の恨みの声を尻目にサタンを乗せた最後の一隻は、色調が青く変化し始めたニビルの空へと飛び立った。
すぐに脱出艇に寄り添うように護衛の戦闘機が近寄って来る。
「アルファ1、援護する」
先行した脱出艇の何隻かは上空で展開するドッグファイトに巻き込まれて、撃墜されている。この期に及んでも、両陣営の戦闘は続いていたのだ。
by levin-ae-111 | 2013-10-20 11:10 | Comments(0)