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by levin-ae-111
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キスカ島の救出劇

キスカ島の救出劇_a0160407_2250957.jpg
 昭和18年、日本は北太平洋に築いた拠点アッツ島を米軍に強襲され失います。陸軍はアッツ島の守備隊を救おうとましたが、戦況が厳しく救出は不可能でした。アッツ島守備隊は全滅、太平洋戦争で初の玉砕でした。
次に狙われるのはその隣のキスカ島です。ですが制空権、制海権を失った状況下でのキスカ島守備隊の救出は非常に困難でした。
潜水艦による救出も考えられましたが、潜水艦では収容人数も少ないうえに、速度も遅く米軍の警戒網を突破するのは無理でした。
結局は高速の水上艦艇で救出するしかなく、木村正福(きむらまさとみ)少将の第一水雷戦隊に出動命令が下りました。高速の駆逐艦隊に白羽の矢がたてられたのです。

キスカ守備隊5千名の将兵を救うべく、木村は北の海に時々発生する濃霧を突いて守備隊を収容する作戦を立てます。濃霧は敵艦隊からも敵機からも木村の艦隊を隠してくれますし、基本的には敵も出て来る公算が低いからです。
濃霧が発生する日を、気象観測班は細心の注意を払って予測しました。キスカの守備隊と綿密な連絡を取りつつ、遂に7月11日に一度目の突入が敢行されました。
ところが、突入以前に霧が晴れはじめます。
キスカでは守備隊が収容予定地点に集合し、今か今かと木村の艦隊の到着を待ち焦がれています。
艦隊の参謀たちは突入を強行に主張しましたが、木村は「帰ろう。帰ればまた来ることができる」と言い、艦隊は拠点の幌筵(パラムシル)に引き返しました。

幌筵(パラムシル)では、救出を断念して帰還した木村に対する非難の声が上がります。しかし周囲の非難を他所に、木村は次の機会を待って悠々と釣りに興じていたといいます。
その間にも木村とキスカ守備隊との連携は続いていて、キスカの気象観測データーを入手し続けていました。
木村少将の撤退を決意した言葉は、必ずキスカの将兵を収容するという固い決意の表れでした。11日に無理をして突入していれば、敵との交戦は必至で、そうなれば救出作戦は失敗するのです。木村は当初の目的を完遂することに重きを置いていました。

 二度目の作戦実行は7月22日でした。19日に幌筵(パラムシル)からキスカ島のあるアリューシャン列島にかけて濃霧が発生したのです。気象班の予測では、後5日間は霧が発生しているとのことです。22日木村は艦隊に出動を命じました。
しかしキスカまで500カイリという所で、またしても霧が晴れます。この時、艦隊の参謀たちは前回とは逆に、敵艦隊を心配します。一方で、キスカからは29日には確実に濃霧が発生するとの予報が入っていました。
木村はこの時、前とは逆の決断を下しました。キスカの予報を信じて、救出の為に突入を命じます。
敵が来たら・・・と言う部下に「敵艦隊が出てきたら、撃ち合って追い払えば良い」と告げます。
果して、前進を始めた木村の艦隊を前後不覚になるほどの濃霧が包み込みます。艦隊は濃霧に乗じてキスカ島の湾に潜入し、敵に知られることなく5千名の守備隊を僅か1時間足らずで収容し、無事に危険水域を脱出しました。

 木村少将は守備隊の救出という目的に対し、感情に流されることなく向き合いました。最初の作戦決行の時、凡庸な指揮官ならば突入を敢行し敵と交戦に成ったかも知れません。
当時の海軍では司令官といえども、部下の感情や意見に配慮し、本当の自らの考えを披歴しない人も多かったといいます。
南雲忠一中将がミッドウェー海戦で何度も兵装転換を指示したのも、雷撃隊の部下たちに雷撃の機会を与えたいという思いが根底にあり、それが兵装転換をさせたのだと分析する人もいます。これが真実であると仮定すれば、南雲の決断は感情に左右されたものです。
同じミッドウェーの指揮官で南雲と反対にドライな決断を下したのは、山口多門少将でした。
たった一隻残った飛龍の攻撃隊は、繰り返し出撃を命じられました。敵の空母を沈めるという目的にまい進し、感情を廃除した結果の命令だったのです。

 さて木村の場合は山口とは逆の味方を救出するという任務ですから、艦隊が敵と戦っては都合が悪いのです。飽くまで敵に気づかれずに守備隊を収容し、撤退するのが作戦の骨子です。最初に引き返すことを決めた時、非難が自分に集中することは木村には分かっていました。目標達成の為に枝葉のことに固執しない木村の態度には、絶対に味方を救出するという熱い決意が伺えます。熱い心と冷静な判断が、この奇跡的な救出を成功させたのでした。
ここに戦時の作戦指揮に限らない普遍的なリーダーの姿を見ることが出来ます。周囲の雰囲気に流されない確固たる目的意識を持ち、綿密な分析と的確で冷静な判断力は、全ての分野のリーダーに求められるものだからです。
by levin-ae-111 | 2014-03-20 22:50 | Comments(0)