十六菊花紋の秘密 55
2011年 07月 12日
常に自立化、秩序化へと向う宇宙を推進させる力こそがスピンにはあり、生命はそのスピンが育む最終段階の秩序だ。
地球や金星のようなスピン体が、太陽系というより巨大なスピン体に包括されているように、スピンは何層にも渡る包括領域を形成する。この複合組織化の力が、秩序ある万物を生成する。
人体を構成する原子核や電子のまわりは空間ばかりの世界であり、その空間を覗けば人間は小さなゴミ程になってしまうとあなた方は言う。しかし、実際には何も無いと見なされるその周りの空間こそ、二次的スピン領域なのであって、それ自体があなた方の言う物質に相応しい領域なのだ。
時間と空間で成立するこの宇宙を理解するにあたり、そこに物質という更なる根源要素を加える必要はない。この発想が全てを複雑化させてしまっているのだ。
現象という現象は、時間と空間というたった二つの広がりの部分的変形に過ぎない。物質も当然、その一つなのだ。自立する秩序空間の成立、これが物質の根源であり、生命の根源でもあるのだ」
疑問が氷解する悦びに浸りつつも、尚も疑問が残っていることに気がついた。
千賀は頭の中で単なる秩序とは思えない生命の意識は、何処からやって来るのかと老人に質問してみた。
全宇宙に響き渡るような、厳かな老人の声が聞こえてきた。
「コマを思い浮かべるのだ。コマは回さなければ、ただ横たわっているだけだ。
しかし回転させるやいなや、自立的に動き回る存在と化す。その姿が、あたかも生き物のようであると、あなたも感じたことがあるだろう。
意識の発生は、これとよく似ている。あなた方は生命と物質の一つの違いとして、自ら活動する存在なのかどうかという識別をしている。空間スピンの発生をこのあなた方の識別で捉えてみれば、宇宙とは何かにあなたも気が付くだろう」
そう言われてみれば、空間は自身以外の何者でもない活動により、存在を生み出しているのだ。それは、まさに自ら活動する存在である。
「この宇宙的視点から生命なるものを再認識した場合、生命を支えるはずの意識とは何かについても、あなた方は新たな定義を迫られることになるだろう。
空間が次々と発生する空間スピンに満ちた存在であるということは、空間は自らも命を営む子宮のようなものであることを意味しているのだ。死んだ様に制しした世界ではなく、自ら生き生きと休みなく活動を続ける生きた世界、それが空間なのだ」
そうだ、空間は生きている。千賀自身が宇宙空間で今感じている、この感覚こそが真実なのだ。老人が敢えて宇宙空間を体験させながら、彼に真実を語るその意図を理解した。
この感覚こそが真実だ。千賀は全身で真理を捉えている自分に気づいた。
総ての空間は生きている、空間は休みなく活動を続ける巨大な統一体なのだ。
「あなた意識は今、宇宙の意識と共鳴し合っている。この状態に入ると、人間は自ら真理を直観することができる。あなた方の現在の生命科学は、思考レベルで構築された概念に過ぎない。
生命の発生をハプニングとして捉えるあなた方の生命観は、生命の重みを宇宙に求めることを不可能にさせている。宇宙の中にたまたま存在した物質が偶然に結びついて生命を生じたとするその認識は、一個の生命発生と成長しか知らない者が、そのプログラム(遺伝子)を無視し、個体の成長の全ての過程を偶然のハプニングと見なしているに等しい。
空間とは最初から別種である物質と物質が結びついた偶然の結果として生命が生じる・・・空間と物質とを切り離すあなた方の宇宙観は、宇宙の説明不能な現象に対し、最終的には偶然という神を持ち出すしかない。
しかし真実は、そこに偶然というものを差し挟む余地はないのだ。秩序という秩序の全ては、最初から空間というこの宇宙の本質に秘められているのだ」