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身の回りの出来事から、精神世界まで、何でもありのブログです。


by levin-ae-111
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金の鷲の惑星(きんのわしのほし)


私たちが太陽系と呼ぶこの恒星系の三番目の惑星は、まだ只の灼熱の球体だった。そこに生物の姿は微塵も無く、熱く溶解した鉱物の坩堝のようであった。そして火球であった三番目の惑星は、次第に冷え固まって行った。
何十億年もの殆ど無限の時が流れた。

 一人の男が断崖の草の上に立っている。男の目前には一面の密林が果てしなく続いている。密林からはギャーギャーと、動物や鳥の鳴き声が響いている。
男は柔らかな草の上に座ると、その騒がしい鳴き声や時折吹く風が木々の枝を鳴らす音や、遠くから響いて来る水音を満足気にうっとりと聞いている。だが、この星の今の状況は、男が所属する開発チームの目指す最終到達点ではない。
男は肉体を有する者ではないが、今は敢えて遥かな過去に肉体を有していた頃の姿をとって此処に居るのだ。

「オシリス、次の段階は10億年後よ」
声の主は彼と一緒にこのプロジェクトを推進しているイシスである。
大霊の意思に沿って、この太陽系『金の鷲』に生命を誕生させ、最終的には知的生命体を誕生させる、それがプロジェクトの最終目的である。
「解っているよ。でもまだベースになる生物の創造が出来ていない」
「そうね、惑星開発チームは確かな仕事をしたわ。私たちも仕事を成し遂げないとね」

惑星開発チームは、宇宙空間に太陽を創り、その周囲に惑星を並べて軌道を安定させた。
未熟な惑星はまだ熱く、惑星開発の技術者たちはこれを冷却し、陸地と海洋とを誕生させた。物理的に高等生物の生存が不可能と思われる条件の惑星にも、その使命は存在する。ただ一つの惑星に生命を発芽させるために、その惑星を安定させることだ。
全ての惑星の質量と軌道、自転速度、公転速度は緻密に計算され、生命を育む場所として選ばれた惑星には、より確かな安定を求めて異例な程の大きな衛星が付加された。

オシリスとイシスはその選ばれた惑星に生命を発芽させ、最終的には知的生命体を誕生させ、その教育をも受け持つという仕事が割り当てられている。
彼らは様々な植物と動物を創作し、この金の鷲と名付けられた太陽系の三番目の惑星に移植した。
試行錯誤を繰り返し、以前に創作した生命体を試したりもしたが、二人の思惑とは異なる結果しか得られない時代が続いた。
今は原始的ではあっても、それが漸く実を結び植物が繁茂し、動物達が生息する一つの世界が出来上がっていた。
オシリスとイシスはタイムワープを重ねて、どの時代にも自由に行ける。そのお陰で自分たちの実験の結果を直ぐに知ることが出来る。
今オシリスが座って見ている景色は、彼らの感覚では昨日の実験の結果でしかない。
最初に彼らがしたことは、大気を調整するために光合成をする藻を海に根付かせることだった。藻は太陽光と二酸化炭素を使い、成長しながら酸素を排出する。
その次には海中で生活するごく単純な生物を放つ、餌は海中の浅瀬に十分に繁茂した藻である。その次は不毛の陸地に適した植物を投入し、更に大気成分の調整を進める。
こういう風にして二人は計画に基づいて次々と生物を放したが、この惑星のタイムスケールでは数万年、数千万年という時を経て漸く一つ一つの結果を見ることが出来る。
しかし彼らのタイムスケールに直すと、それは昨日のことであり、数時間前のことでしかない。

計画ではまず初めに、大いなる意識の意思が示された。そして選ばれた空間に恒星と惑星、衛星がその使命に適する様に創られ配置された。
神は7日間で世界を創造された・・・これに似た伝説はオシリスたちの文明にも遥か古代に存在していた。
科学を発達させたその文明は、幸いにも精神性とのバランスも良く、順調に進化発展して行った。
やがてオシリスの惑星の祖先たちは、自分たちが何者かに創造されたのだという決定的な証拠を見つけ出すに至る。
彼らの祖先たちは創造主を探して、広大な銀河を探索し続けたが、遂に創造主と出会うことは叶わなかった。
しかし更に文明が成熟し、彼らの種が精神的な頂点に達すると、物質に縛られる度合いが次第に少なく成って行った。精神性と物質的側面がバランス良く発達した文明であった為に、彼らが進歩する度にあらゆる事柄から自由に成ることが出来るようになる。

最後には物質的肉体から解放され、一種の意思エネルギーとして誰もが存在する様になり、その段階に到って初めて彼らは自分たちの創造主を知ることが出来た。
そして今は自分達が新たな亜空間で、新たな生命を創造するという仕事を始めているのだ。生命創造の技術者であるオシリスとイシスは、太陽系創造の技術者たちの作品を受け継ぎ、選ばれた惑星を生命の楽園とし、更に新たな文明社会を発生させる仕事に着手した。それは彼らの祖先たちが捜し求めた創造主の成した技の彼ら成りの再現である。
彼らの創造主は遠い次元に居る、彼らもまた自分達の創造物とは一定の距離を置く必要があるが、それは知的生命体を誕生させてからのことだ。
オシリスは今しばし、自分達の創造した世界を味わっていたところだ。肉体を再現し、思い切り息を吸い込むと、甘く濃密な大気を味わう。
座った草の香り、柔らかなその感触、遠くから響く瀑布の水音や風が肌を撫でて吹く時の皮膚の感覚、動物たちの鳴き声、そのどれもがオシリスには愛おしく感じられた。
by levin-ae-111 | 2012-12-24 08:20 | Comments(0)