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by levin-ae-111
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架空戦記「震電」3

3.終戦
 最新鋭の迎撃機『振電』が最初の戦果を挙げてからも、彼らの出撃は相変らず許可されなかった。波状的に押寄せる敵の空襲で、厳重に隠蔽してあった震電も既に地上で半数が失われた。
笹井たちは護衛戦闘機を伴った敵が近づくと、空中退避を余技なくされた。木製の囮があちこちで破壊され無残な姿を晒している中、今日も笹井たちは残った震電に飛び乗り、空中退避する。
乗機を持たない搭乗員は、防空壕に入るしかない。杉野の機体も地上で敵の銃撃により失われた。彼は忌々し気に基地上空を乱舞するグラマンを、防空壕の入り口に身を潜めて眺めるしかなかった。

 しかし時には零戦や紫電改に乗り、迎撃戦を展開することもある。
震電以外の戦闘機があれば、彼らはそれに乗り戦ったが、今はもう他の機体も無い。
だが翌日、杉野に思いも掛けない機会が巡ってきた。
「敵襲、搭乗員は空中退避!」
その日は警報の直後にグラマンの編隊が来襲した。各搭乗員は固有の機体に近寄れず、手近な者が機体を避難させるしかなかった。
杉野は笹井の乗機に飛び乗り、すぐさまスターターのスイッチを入れた。乗機を失ってから10日、久々の震電だった。

 既に敵機の銃撃を掻い潜って、味方の何機かは空中に在る。杉野も急いで機の速度を上げながら滑走を始めた。
敵の撃つ曳光弾の火線が追って来る、杉田はフットバーを左右に蹴りながら、敵機の銃弾を逸らしながらスロットルを全開にした。
震電はたちまち速度を増し、あっさりと空中に浮き上がった。
高度は十分ではないが、追いすがるグラマンを右旋回でかわし、杉田の乗る震電は一気に上昇して行く。
辺りを見回すと、既に何機かのグラマンが煙を吹いている。
頭上では味方が迎撃しているのか、幾つもの雲の弧を描いて空中戦が展開されている。
 
小編隊を組んで一直線に突っかかる様に突進するグラマン、その先にはそれをあざ笑うかの様に鮮やかな捻りこみを決めて突進をかわす震電。
その震電は敵の一撃をやり過ごすと、そのまま敵編隊の後方に付き、小編隊のしんがり機を火玉に変えてしまった。
「誰だ?あの手際は・・・西沢さんか」
味方は5機程度しか空中に居ないが、その10倍もの敵を各所で翻弄している。杉野にも敵編隊が襲い掛かって来る。
戦闘空域は狭く、杉野は頭を常に動かし周囲の状況を把握しながら、不用意に目前に飛び出したF6Fに銃弾を浴びせて行く。

震電の装備する30ミリ砲弾が命中すると、F6Fのアイアンワークスと呼ばれる自慢の頑丈な機体も紙の様に簡単に千切れてしまう。
敵は一機撃墜されるたびに躍起になって日本機を追う。彼らの直線的な仕掛けは、動きの機敏な震電に軽くかわされ、慌てて引き起した頃には真後に震電が張り付いていた。
降下速度でも震電はF6Fを凌駕しており、旋回性能でも勝てないとなると打つ手は無い。
いつの間にか多くの仲間が撃ち減らされ、彼らはパニックに陥った。
「ゼロじゃあないぞ、ジークでもない、助けてくれー」味方のパイロットたちの悲鳴が交錯する無線を聞きながら、指揮官のワッツ少佐は必死で敵を追い回した。彼のキャリアを総動員して、敵を追い込むことに全力を尽くした。しかし撃墜のチャンスは訪れず、若い部下たちの犠牲は増すばかりだ。

「新型機だ、これでは我々は全滅する・・・」少佐は撤退を決意せざるを得なかった。
「全機、戦闘空域から離脱せよ!」
その指揮官からの命令を受けて、敵編隊は次々と戦場を離脱して行った。杉野たちは逃げて行く敵を追わなかった。
しかしワッツ少佐たちにとって不運だったのは、命からがら母艦へと戻る途中で、陸軍の疾風と五式戦闘機に出くわした事だった。この部隊も空中退避していたが、そこは戦闘機乗りたちであり、獲物を目前にして指をくわえては居なかった。
ワッツ少佐の部隊はこの日、多大な損害を出した。その日は日本がポツダム宣言を受諾する前日であった。

 杉野たちは爆撃で穴だらけになった基地には戻れず、各々に付近の飛行場に着陸せざるを得なかった。飛び上がった5機の震電のうち、3機は陸軍基地へ降りた。
2機は埼玉と群馬に降りた。
何れも僻地の飛行場に降りた震電搭乗員たちは、各々に何とかして基地へ戻ろうとした。だがそこで玉音放送を聴いた。
日本の降伏を告げる天皇陛下の勅を聞きながら、人々は涙したり放心状態になったりしている。中には徹底抗戦を叫ぶ人々も居り、小さな田舎基地の司令官は杉野に出撃命令を出した。これは陛下の大御心ではない、敵の策略であるとして、その基地で唯一の戦力であった杉野の震電を戦いに出そうとしたのである。

それに対し「燃料と弾薬の補給をお願いします」杉野は冷静に答えた。杉野の震電は先日の空戦で燃料・弾薬ともに底を突きかけていた。
それを聞いた途端に、威勢の良かった基地司令官の表情が曇った。既にその基地には弾薬も燃料も無かったのである。
陛下の勅が放送されると、陸海軍の最高責任者から飛行禁止が発令された。こうして最新鋭機『震電』の戦いは終わった。

後書き
圧倒的な高性能だったが、その登場は既に遅かった。実際の『震電』はこの物語の様に敵と戦うことはなかった。もし開発が間に合っていれば、現代のジェット戦闘機にも通じるこの画期的なスタイルの戦闘機はどんな戦いをしたであろうか。
想像の翼を広げて書き出してはみたものの、無知な私にとってはこの程度が限界であった。
実際の震電が戦いの空に上がったとしても、どの様な結果に成ったかは分からない。
唯一、言える事は、震電が如何に奮戦しようとも戦争の勝敗には影響が無かったろうという事だけである。
by levin-ae-111 | 2013-03-21 12:28 | Comments(0)