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身の回りの出来事から、精神世界まで、何でもありのブログです。


by levin-ae-111
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金の鷲の惑星(きんのわしのほし)4-4

 激しい風雨の中を歩いて、一人のアヌンナキの男が坑道の入り口に入った。男はフルフェイスのガスマスクを着け、硫化水素を多量に含む空気が入ったボンベを背負っている。
身の丈が190センチを越えている男は、少し腰を屈めるようにして坑道の奥へと入って行く。淡いオレンジ色のライトに照らされた電源ボックスの扉を開くと、幾つかのスイッチをオフにした。
すると坑道を覆っていたシールドが消え、暫くして硫化水素を含んだ火山ガスが坑道に侵入し、男はマスクを外せるようになった。
ここは既に金を掘り尽くして廃坑となっているのだが、密かにこの場所に集まる様にとの指令を主だった部下たちに出している。

まだ誰も居らず、アヌンナキの男は身体の構造が脆弱な生体ロボットが怪我をしないように特別にソフトに造られた部屋の壁に寄り掛かった。
そこへ数名のアヌンナキの男たちが、ゾロゾロと入って来た。
「こんな廃坑へ俺たちを集めてどうしました隊長」
そう話し掛けた男は、副隊長の3021である。
「まあ、慌てるな」ここから俺たちの時代が始まるのだ・・・男は後の言葉を呑み込んだ。
彼自身、薄暗い坑道で息苦しいマスクを着けて、生体ロボットたちを監視したり、殺したりするのにはもう辟易していた。そんな時に一人の女が現れたのだった。
実のところ、この廃坑に男たちを集めたのは彼ではなかった。
男は3011という自分のコード以外に、初めて名前というものを持った。あの美しい女が自分に名前をくれたのだ。その時の事を男は思い出してみる。

何の前触れもなく現れたヤハゥエのお気に入りの女は自分でイヴと名乗り、3011にトートという名前をプレゼントしてくれた。
その名前は何でも遠い昔にこの星で生まれ、ニビル人の始祖として伝説となった男の名前だという。
「トートか、悪くない。伝説の男というのが気に入った」
男は女に言うともなく、呟いていた。
それからイヴはニビル人の歴史と、自分たちが産まれた経緯、現在の自分達の置かれている状況について話してくれた。
自分達も生体ロボットの一種でしかない事に、トートは強いショックを受けた。同時に自分達が管理しているロボットたちに対しても、哀れみさえ感じた。
これまでヤハゥエたちニビル人を神の様に崇めその指示に従って来たが、イヴの話しでは彼らとて誰かに創造されたものらしい。ニビル人を創造した神は慈悲深く、ニビル人が進化すると彼らを自由にした、そのお陰で今日のニビル人が存在している。
それなのに自分たちの種族は未だに奴隷か家畜としてしか扱われていない。感情の乏しいアヌンナキたちだが、この時トートは激しい怒りを覚えた。
そして、イヴとトートは仲間たちの解放について、時間の許す限り話し合った。
それからも何度も話し合い、実行に向けての作戦案を練ったのだった。

 今、その計画を実行するのだ。トートは胸の高鳴りを押さえて、威厳のある声で話し始める。
「全員、揃ったな。これから俺たちが何をするか説明する」
整列した部下たちを前に、トートは計画の説明を始めた。
この坑道の最深部には巨大な掘削機と爆弾が眠っていた。トートはそれを使って、仲間の女性たちを解放しヤハゥエの宇宙船を乗っ取り、この星を脱出する、それがアヌンナキの警備隊長トートとイブの魂胆だった。計画では一隊を以て掘削機と爆弾を確保し、もう一隊を以て女性たちの解放を行うことになっている。
部下たちは驚きでざわついたが、隊長の真剣な顔を見て静まった。
ニビル人の科学力は確かに凄いが、何しろ僅かな人数しかいない。トートの指揮する警備部隊は200名を越えている。
それに生体ロボットたちのコントローラは自分達の手にある。さして戦力には成らないだろうが、それでも盾くらいには使えるだろう。
哀れではあるが、それでもこの作戦が成功すれば、彼らも自由を手にする筈である。

「作戦を開始する、その前にお前たちに名前を授ける。これからはナンバーではなくその名前でお前たちを呼ぶことにする」
トートは力強く宣言し、居並ぶ分隊長たちに名前を授与していった。
副隊長の3021は、その瞬間からアナトとなった。各々に名前を授与された分隊長たちは、常にない不思議な感情に包まれた。
番号ではない固有の名前、それはトートを含めて彼らにとって自分という個を認識させる初めての出来事であったかも知れない。
トートは分隊長とその部隊を率いて、自分たちの住居の地下へ向った。そこには、彼らがヤハゥエの宇宙船から地上へ降ろされた時に使った小型宇宙艇が格納されている。
小型宇宙艇といえども、その長さは100メートル以上もある大きなものだ。
アヌンナキの全員と数百の生体ロボットがその小型宇宙艇に乗り込み、9隻の宇宙艇はエンジンを始動し発進準備を整えた。
「エフェクトは万全にしろ、それから認証シグナルは命令するまでオフにしておけ」
「了解しました、他の機にも徹底させます」
ヌンという名前を貰った分隊長が、少し緊張気味に応えた。

 その頃、副隊長のアナトは数名の部下を率いて掘削機に取り付いていた。巨大な掘削機の先端には砕いた岩石を後方へ送り出すためのブレードがあり、中心にはレーザー光線を発するレンズが円を描いて幾つも取り付けてある。
レーザーで岩石を砕き、ブレードでそれを取り込み後方へ送る仕組みになっている。
「後方の機体をパージしろ、急げ」
「待ってください、少し後へ下げます。そうでないと、ブレードを破損します」
部下の冷静な態度にアナトは、少しだけ口元を吊り上げて笑った。
 巨大な円筒形の列車の様な掘削機は、鈍い音を立てて動き出す。粉塵が舞い岩石が軋み砕ける音が坑道内に響き、掘削機は坑道の先端から数十メートル後退して停止した。
「後部ユニットをパージします」
部下が安全装置を解除してボタンを押し込むと、切り離された後部ユニットが動力を失ってドスンと落ちた。
「発進します」
「よし、急ぐぞ」
掘削機の前部制御室には、残りの部下たちが回収した地下掘削用の特殊爆弾がしっかりと固定されている。

後部ユニットを切り離して先頭だけに成った掘削機は、左に進路を変え岩石後送用のブレードを回転させながら坑道の壁を難なく崩して前進を始めた。
坑道の横穴は予めトートが掘らせていたもので、薄い壁でカモフラージュされていて宇宙艇が格納されている自分たちの住居の地下へと続いていた。
彼らは掘削機を宇宙艇に積み込み、全ての準備が完了した。
by levin-ae-111 | 2013-04-05 23:26 | Comments(0)